時には贈り物で女の子を喜ばせるブログ:2016年05月15日
あたしは息子の頃を思い出すと、
いつも裸電球のうす暗いトイレが浮かんでくる。
ちり紙のかわりに新聞紙が置かれている…
その頃のあたしは
色のない世界を生きているようだった。
どうしてあたしの家は貧乏なのだろう。
あたしはお金持ちの家の息子に生まれたかった。
チャイムの鳴る家、きれいなトイレ、
フリルの着いたブラウス、お菓子、そして自動車…
あたしは、いつも空想の世界で生きていた。
欲しい物は、何一つ手に入らない…
魅力的な品々は、次々と目の前に現われては素通りしていった。
田舎が嫌い、農業も嫌い!
あたしは、地元の高校へ行かなかった。
少しでも家から離れたかった。
高校卒業後、
貧しいにもかかわらず、
親は、あたしの進学を許してくれた。
しかし、卒業したものの就職先も決まらず、
あたしは家に戻ることになった。
田舎に戻ったあたしに、親は何も言わなかった。
居心地も悪く、あたしは地元で仕事を探した…
地元に就職して、2ヶ月が過ぎた頃、
あたしは農家の長男と知り合った。
農家の長男、跡取り…
不安な材料ばかりだった。
やめよう、幸せになんてなれない…
やっぱり普通のサラリーマンがいいな。
「あたしたち、お父さんやお母さんに
遊びに連れていってもらったことなんて一度もなかったよね」
姉貴と二人で、農家なんて嫌だと話していた。
この家で、幸せなことは何一つとしてなかった。
現に目の前には、
不幸の象徴である母がいるではないか…
その時だった。
「農家はたいへんだけど、秋に米ができるとうれしいもんよ」
母がぽつりと言った。
母のクチからではなく
母の体の奥から、
さらりと出てきた言葉のようだった。
それは、長い間、農作業をしてきた
体から出てきた魂のひびきにも聞こえた。